大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和41年(行ウ)72号 判決 1974年5月17日

原告 田中博之

被告 大阪市長

主文

一、被告が昭和四一年五月三〇日大阪都市計画事業新大阪駅周辺土地区画整理事業施行者として、訴外青木吉太郎に対し、仮に賃借権の目的となるべき宅地として、別紙仮換地目録第二の(2)の(イ)記載の土地を指定した処分の取消を求める訴えを却下する。

二、同日、同事業施行者として

1  被告が原告に対して、同目録第四の(1)記載の土地につき、同目録第四の(2)記載の土地を、その仮換地として指定した処分

2  被告が訴外藤田勇、同石山重太、同安国縫治郎、同大橋与三吉に対して、それぞれ同目録第三の(2)記載の土地につき、別表(1)記載のとおり、仮に賃借権の目的となるべき宅地部分を指定した処分

は、いずれもこれを取消す。

三、原告のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が、別紙仮換地目録従前の土地欄記載の各土地につき、昭和四一年五月三〇日、大阪都市計画事業新大阪駅周辺土地区画整理事業施行者としてなした仮換地指定処分は、これを取消す。

2  被告が、右同日、同事業施行者として

(一) 訴外青木吉太郎に対し、同目録第二の(2)の(イ)記載の仮換地全部につき

(二) 同川西鉄市ほか一名に対し、同目録第二の(2)の(ロ)記載の仮換地のうち九五平方メートルにつき

(三) 同中村勇次に対し、同目録第二の(2)の(ロ)記載の仮換地のうち七〇平方メートルにつき

(四) 同藤田勇に対し、同目録第三の(2)記載の仮換地のうち一五四平方メートルにつき

(五) 同石山重太に対し、同目録第三の(2)記載の仮換地のうち三二一平方メートルにつき

(六) 同渡辺輝夫に対し、同目録第三の(2)記載の仮換地のうち三一平方メートルにつき

(七) 同安国縫治郎に対し、同目録第三の(2)記載の仮換地のうち四六平方メートルにつき

(八) 同大橋与三吉に対し、同目録第三の(2)記載の仮換地のうち二八六平方メートルにつき

それぞれ、仮に賃借権の目的たる土地部分を指定した処分は、これを取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二  被告

1  原告の請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  別紙仮換地目録「従前の土地」欄記載の各土地(本件第一従前地三筆、同二従前地六筆、同三従前地一筆、同第四従前地一筆)は原告が所有している。

2  被告は、昭和四一年五月三〇日、大阪都市計画事業新大阪駅周辺土地区画整理事業(以下本件土地区画整理事業という)施行者として、右各土地につき前記目録「仮換地」欄記載の各土地を仮換地(本件第一ないし第四仮換地)として指定し、原告は同年六月三日、右各仮換地指定通知書の送達を受けた。

3  しかしながら、前記仮換地指定処分には以下に主張するような違法事由があり、取消を免れない。

(一) 本件第一仮換地(二九―一ブロツク符号<4>の仮換地)について(別紙図面(一)参照)

(1) 本件第一仮換地の指定によれば、右仮換地は、従前の土地である東淀川区西中島町八丁目三〇、三一番地、三九番地の一の各土地を減歩したうえ、一括して、一箇の仮換地としたものである。

(2) 右仮換地の指定は、右三〇、三一番地の土地が互に隣接し、かつ三九番地の一の土地については第三者の目的となつていないことから、漫然とこれら三筆の土地を一括して、一箇の仮換地としたに止まるのであるが、本件土地区画整理事業においては、他の狭小な土地については、当該土地の所有者が他により面積の広い土地を所有している限り、すべてこの他の土地と一括して仮換地指定がなされているところ、原告も、二九―二ブロツク内に仮換地の地積が、一、七四六平方メートルに達する土地のうち二九―二ブロツク符号<6>の仮換地の従前地)を所有しているのであるから、前記三筆の土地は、これと一括したうえで仮換地指定がなされるべきで、これは、土地区画整理事業の目的のひとつが過小宅地の整理統合にあることに鑑みても、当然とられるべき措置である。

(3) しかるに前記仮換地は、右のような措置がとられなかつたために、地積はわずかに六三平方メートルの極めて不整形な三角形となつており、その指定処分は、従前の土地が同一状況下にあつた同ブロツク符号<2>等の仮換地を比較しても、著しく差別的な処分である。

(二) 本件第二仮換地(二九―二ブロツク符号<5>および<6>の仮換地)について(別紙図面(二)参照)

(1) 本件第二仮換地指定によれば、訴外青木吉太郎が借地権を有し占有中の西中島町八丁目五五番地の一、二の各土地を一括して二九―二ブロツク符号<5>の仮換地とし、同所四五、四八、四九、五〇番地の四筆の土地を一括して同ブロツク符号<6>の仮換地として、右符号<5>の仮換地は符号<6>のそれの南西隅に隣接して指定したものである。

右従前の土地のうち五〇番地の土地には、原告の居宅が存在し、第三者の賃借権等権利の目的となつている部分は全くなく、南および西側において公道に面していた。また四五番地の土地は、右五〇番地の土地の北側に位置し、地上には第三者が原告から賃借している建物が存在する。

(2) ところで、右符号<6>の仮換地指定は、以下に主張するように、その位置、形状等の立地条件、利用価置、利用状況において全く従前の土地と照応しておらず、その指定処分は違法である。

イ 右四五、四八、四九、五〇番地の従前の土地は、全体としては南、西および北側の三面において公道に面し、原告の居宅(これは移転を要する建物とされていない)のある五〇番地の土地も南および西側において公道に面して、南側には居宅とほぼ並行して門長屋、板塀があり、西側には板塀が隔てて道路があつた。また四九番地の土地の一部を除けばば、その全体の形状はほぼ矩形をなしていた

ロ しかるに右仮換地指定によれば、右原告の居宅敷地部分には、訴外小沢政次郎の同ブロツク符号<3>、<4>の仮換地が、その西側において隣接することとなり、原告の前記敷地部分の大部分は、これと訴外青木吉太郎に対する借地指定部分(二九―二ブロツク符号<5>の仮換地全部)、他人所有建物(川西鉄市、中村勇次ら所有の同ブロツク符号<6>の仮換地地上の建物)、賃貸中の原告所有建物(前記従前の四五番地上建物)により囲繞されて、わずかに南側において公道に面するのみで、袋地と同様の状況になることが明らかである。また右仮換地の形状は、極端に複雑、不整形である。仮換地中原告自ら使用しうる部分は極度に狭小であるが、加えて、従前ほぼ長方形をなしていた原告方庭園は、訴外中村勇次、同青木吉太郎に対する借地あるいは借地部分の指定による割り込み等により全く形状が不整形となり、前記門長屋についてはその移転方法すら明らかでない。

このような次第で前記仮換地は、その従前の土地と比較して、利用方法が制限され、利用価値は著しく低下している。

(3) さらに本件第二仮換地のうち符号<6>の仮換地指定処分には、その仮換地の従前地に借地権を有しない訴外川西鉄市ほか一名、同中村勇次に借地部分を指定し、同人らに右借地権があることを前提として、右仮換指定をなした違法がある。

(4) 以上のような理由で、二九―二ブロツク符号<6>の仮換地指定処分が取消されるべきものである以上、この南西部分に相隣接して指定される同ブロツク符号<5>の仮換地指定処分も、違法となり、取消されるべきは当然である。

このほか訴外青木吉太郎には、右符号<5>の仮換地の従前地(五五番地の一、二)の全部について借地権を有していたとして、右仮換地の全部に借地権が指定されているが、同人は右従前地の一部について借地権を有していたにすぎないから、その限りにおいて右<5>の仮換地指定処分は違法である。

(三) 本件第三仮換地(二九―三ブロツク符号<3>の仮換地)について(別紙図面(三)参照)

(1) 原告は、東淀川区西中島町七丁目三六番地の本件第三従前地の一部を、訴外藤田勇、同石山重太、同渡辺輝夫、同安国縫次郎、同大橋与三吉に賃貸していたが、同人らに仮に指定された右仮換地における借地部分の面積は、いずれも、前記仮換地全体の面積が従前の土地のそれより相当減歩されるにかかわらず、右従前地につき同人らが有していた借地部分の面積を著しく超えている。さらに訴外渡辺八重子については、現に借地権の有無をめぐつて訴訟が係属し前記従前地に借地権を有するか否か確定していないのに、すでにそれを有することが確定しているものとして、前記仮換地に仮に借地部分の指定がなされている。

この結果、必然的に、原告が使用し得る仮換地部分は、著しく減少することになり、原告の権利は侵害されている。

(2) さらに、前記藤田勇らに対する借地部分の指定が別紙図面(三)赤線内のとおりになされると、同人らに対する借地指定部分を除き、原告自ら使用収益できる部分は、別紙図面(三)の黒斜線部分と右仮換地の南端部分の二か所に分離されることになる。

しかし、右黒斜線部分の面積はわずかに六四平方メートルで、それだけでは利用価値がないうえに、この部分は従前第三者が賃借占有していたのであるから、同人にこれを借地部分として指定すればよく、原告自ら使用収益できる部分は、前記仮換地の南端部分に一括集中するように、前記借地部分の指定をなすべきで、これを二か所に分離しなければならない理由は全くない。

(四) 本件第四仮換地(二九―五ブロツク符号<3>の仮換地)について(別紙図面(四)参照)

(1) 本件第四仮換地は、その位置、形状等の立地条件、環境、利用価値において全く東淀川区西中島町七丁目三四番地の本件第四従前地と照応していないから、その指定処分は違法である。

すなわち、右従前地は、三面が公道に面し、その東側においては幹線道路に面しており、ほとんど正方形に等しい形状の土地で、新御堂筋線予定地内に位置していたが、前記仮換地は、その形状において奥行が深く、間口は狭く、また公道に面する部分はわずか一面しかない。

(2) さらに本件第四仮換地指定処分は、訴外上野化学工業株式会社に対する仮換地指定処分(従前地西中島町七丁目三二、三三番地査定地積合計九六三・二七平方メートル、仮換地二九―五ブロツク符号<2>地積六九九平方メートル)と対比しても、著しく不平等な処分である。

右訴外会社の従前地(別紙図面(四)の青斜線部分、その仮換地は同図面の赤斜線部分)は、三か所に角地を有するとはいえ、幹線道路に面するのは東側の一面のみで、その形状もL字形であり、その形状、位置、環境、道路の利用状況等において、原告の本件第四従前地の方が優れていた。原告は、現在この本件第四仮換地を右訴外会社に賃貸しているが、将来その返還を受けて自らが使用する場合に、右従前地と比較して、その利用価値が劣ることは明らかである。

4  つぎに、被告は昭和四一年五月三〇日、本件土地区画整理事業施行者として、訴外青木吉太郎、同川西鉄市ほか一名、同中村勇次、同藤田勇、同石山重太、同渡辺輝夫、同安国縫次郎、同大橋与三吉に対し、本件各仮換地のうち第一の一の2項記載の部分に、仮に借地あるいは借地部分を指定しているが、この指定処分は、つぎに述べる理由により違法であるから取消されるべきである。

(一) 訴外青木吉太郎には、本件第二仮換地のうち二九―二ブロツク符号<5>の仮換地全部が借地に指定されているが、同人はその従前地である東淀川区中島町八丁目五五番地の一、二の土地全部について賃借権を有していたのではない。

(二) 同川西鉄市ほか一名は、同ブロツク符号<6>の仮換地の一部に借地部分の指定をうけているが、原告は同人らに対しては、本件各従前地のいかなる部分にも賃借権等の権利を設定したことはない。原告は、訴外土橋幸子に対して、本件第二従前地の一部である同町八丁目五〇番地の土地の一部を賃貸し、同人はその地上に建物を所有していたが、昭和三七年九月死亡し、その相続人らが昭和四一年一月二八日、右建物を前記川西らに譲渡した。このような経緯があつて、訴外川西らは被告に借地権の申告したものと思われるが、原告は右訴外人らに対し、賃借権譲渡の承諾を与えた事実は全くない。原告は、右訴外川西らを相手に、右建物の収去を求める訴えを大阪地方裁判所に提起し(同裁判所昭和四一年(ワ)三、一八七号事件)、右訴えは現に係属中である。

(三) 同中村勇次は、同ブロツク符号<6>の仮換地の一部に借地部分の指定をうけているが、その従前地の賃貸借契約は、右指定以前の昭和三九年三月二一日に、同人の賃料不払を理由に解除されている。また、その指定処分によれば、借地部分が原告居宅正面中央に位置しており、原告の権利を侵害すること甚だしい。

(四)(1) 前述のように、原告は本件第三従前地の一部を、訴外藤田勇、同石山重太、同渡辺輝夫、同安国縫治郎、同大橋与三吉に賃貸していたが、前記被告の借地権部分の指定処分によれば、右訴外人らが賃借権を有すべき土地の面積は、右従前地における同人らの賃借面積を著しく超えるものである(その詳細は、別表(一)記載のとおりで、同表申告地積欄記載の面積が、従前地における賃借面積である)。本件第三仮換地の面積は、第三従前地のそれにくらべ減歩になつているのに、このように同人らに従前地におけるより以上の面積の借地部分を仮に指定することは、原告自ら使用収益し得る部分をそれだけ減少させることである。

(2) また、すでに3の(三)の(2)において述べたように、本件第三仮換地のうち原告自ら使用収益できる部分を、二か所に分離するように右各借地部分を指定したのは、違法である。

5  よつて原告は、前記各仮換地指定処分および各借地ならびに借地部分の指定処分の取消を求める。

6  なお、原告の本件各仮換地に関する検尺が別紙図面(一)ないし(四)に表示されたとおりであること、本件各仮換地の減歩率が原告主張のとおりであることは認めるが、その余のブロツク内仮換地の減歩率は不知。

二  被告の答弁と主張

(本案前の主張)

原告は、昭和四六年三月二五日、訴えの変更申立書を提出して、訴外青木吉太郎らに対する借地、借地部分の指定処分の取消を求める訴えを新しく追加したが、右変更申立ての時期において、すでに行政事件訴訟法第一四条所定の出訴期間を経過しているから、右新訴の提起は不適法である。

(答弁)

請求原因1、2項の事実は認める。

同3項の(一)の事実中、(1)の事実および三〇および三一番地の土地が互に相隣接していることは認めるが、その余の事実は争う。

同3項の(二)の(1)の事実中、五〇番地の土地に第三者の権利の目的となつている部分がないことは不知、その余の事実は認める。

同3項の(二)の(2)、(3)、(4)の事実中、訴外小沢政治郎の原告主張の仮換地が、原告の居宅敷地部分と西側において一部隣接することになること、訴外青木吉太郎、同川西鉄市、同中村勇次に対し、原告主張のとおりの借地権あるいは借地部分の指定処分がなされていることは認めるが、その余の事実は争う。

同第3項の(三)の(1)の事実中、原告主張のとおり本件第三仮換地の指定処分、訴外藤田勇ら六名に対する借地部分の指定処分がなされたことは認めるが、その余の事実は争う。

同3項の(三)の(2)の事実中、原告自ら使用収益できる部分が原告主張のとおり二か所に分離していること、黒斜線部分の土地を従前第三者が賃借占有していたことは認めるが、その余の事実は争う。

同3項の(四)の事実中、原告主張のとおり本件第四仮換地の指定処分がなされたこと、右仮換地の公道に面する部分は一面しかないこと、訴外上野化学工業株式会社に対し、原告主張のとおりの仮換地指定処分がなされたこと、その従前地が三か所に角地を有することは認めるが、その余の事実は争う。

同4項の事実中、原告主張のとおり各借地部分の指定処分がなされていることは認めるが、その余の事実は争う。

(本案の主張)

1 本件仮換地指定処分は、土地区画整理法(以下法と略称する)第九八条第一項に基づきなされたものであるが、本件各仮換地および周辺土地の状況、検尺関係は添付図面((一)ないし(四))に表示するとおりで、原告の仮換地の減歩率およびその仮換地の存在する同一ブロツク内の仮換地の平均減歩率(施行地区全体の平均減歩率は二二・二パーセントである)は、別表(二)のとおりである。

2 被告は、本件各仮換地の周辺において、(イ)二九―二ブロツク符号<5>、<6>の北西側および南側において、従前約三メートルにすぎなかつた道路を、西側および南側において、一六メートルおよび八メートルに整備、拡張し、(ロ)二九―三ブロツク符号<3>の東側において従前八メートルにすぎなかつた道路を九〇メートルの御堂筋線とし、さらに東側において、新大阪駅前線、西淡路南方線、南側において十三吹田線を設け、(ハ)西側に一、七三八坪に及ぶ公園を設ける等の環境の改善整備を計つており、原告に指定された、仮換地を全体としてみても、本件土地区画整理事業により、従前地よりは格段に利用価値が増大している。

3 本件各仮換地指定処分はいずれも適法になされており、原告の請求は理由がない。

(一) 本件第一仮換地について

被告は、本件第一従前地のうち西中島町八丁目三九番地の一の土地が、他の同所三〇、三一番地の各土地から離れて存在し、極めて狭小な土地で(査定地積一四、一四平方メートル)、利用価値も乏しいので、右三〇、三一番地と合わせて、しかも従前地上の建物の利用価値を減少させないよう配慮しながら、仮換地指定をした。右仮換地は、地形が前記三〇、三一番地の従前地に類似し、地積も六三平方メートルあり、原告の主張するように狭小で不整形な土地ではない。原告は、狭小な土地の仮換地指定は、面積の広い土地と一括して行なうべきであるというが、土地区画整理法にはそのように取り扱わなければならない原則はない。

(二) 本件第二仮換地について

(1) 本件第二従前地のうち西中島町八丁目四五、四八、四九、五〇番地の土地は、北西側および南側において幅員約三メートルの道路に面するL字型の極めて不整形な土地であつたところ、被告は、できる限り右土地の不整形な形状を矯正し、ほぼ原地において仮換地を指定した。西側の一部において、原告主張のように訴外小沢政次郎の仮換地と隣接することになつたが、なお西側においても約六メートルにわたつて幅員一六メートルの道路に直接面しており、また南側においても、訴外中村勇次、同川西鉄市、同青木吉太郎に対する借地指定部分を除いても、原告が使用し得る部分はなお幅員八メートルの道路に直接面しているから、原告が主張するように他の建物等に囲繞されることにはならない。また原告は、従前小沢政次郎の仮換地との隣接部分には塀を設け、通行の用に供していなかつたのであるから、仮換地指定によつて利用状況が妨げられたとはいえず、従前原告が通路として利用していた門および道路に面する空地部分と仮換地指定後道路に面することになつた部分を比較しても、仮換地指定後に通行に支障が生じたとは考えられない。

(2) ほぼ原地において仮換地を指定するにあたり、建物が地上に多数存在する場合には、極力その移転を少なくするのが社会経済上の要請である。本件においては、南側に八メートルの道路を設けるにつき、訴外川西鉄市ほか一名および同中村勇次所有の各建物の移転が必要であつたが、訴外川西所有の建物をそのまま北へ移転することは、原告所有建物が存在し不可能であつたので、添付図面(二)に表示した位置に移転し、同中村の建物はその西側に移転せざるを得なかつた。なお右川西と中村の各借地の間の土地へは、原告所有の貸家が移転することになつている。

(3) このように右訴外人らに対する借地部分の指定については、原告および前記訴外人らの現地における土地の利用状況を十分考慮したうえで、最も合理的にその指定をなしており、原告使用部分の利用価値を減少させるものではない。

(4) 原告は、被告が訴外川西鉄市ほか一名、同中村勇次に対して、右従前地上に借地権を有する者として、仮換地上に仮に借地権の目的となる部分を指定した点についても不服を述べているが、同人らは、施行者である被告に対し法第八五条第一項の規定に基づき当該権利を証する書類を添えて適法に借地権の申告を行ない、その後に法第八五条第三項の規定による当該権利の消減の届出はなされていないのであるから、被告の右指定は何ら違法なものではない。

(三) 本件第三仮換地について

(1) 被告は、右仮換地を指定するに際し、仮換地の一部に借地権者の家屋が存在するので、その現況をできる限り考慮し、また東側道路(御堂筋線)と従前地の間に長さ五七メートルにわたる狭隘な三角地が介在するが、これは極めて狭小で独立して利用できず、これを除いて借地権の目的となる部分を指定すれば、右借地部分の土地は道路に面しないこととなり不都合であるので、右三角地を従前地に付加して仮換地指定した。その結果、訴外藤田勇ら五名の借地権指定部分の面積が、従前地における借地部分の面積よりもやや広くなつたが、本件第三仮換地は他の仮換地に比して相当減歩が緩和されているため、原告自ら使用し得る部分が不当に狭くなつたということはない。

(2) 原告自ら使用し得る部分が二か所に分離したのは、現地の建物の実状に即し、できるだけその利用価値を減少させないよう配慮して、前記藤田らの借地部分を指定したためで、原告の主張するように原告が使用し得る部分が一か所になるように借地部分を指定することは、現地の状況からいつてほとんど不可能である。右二か所の土地は、幅員九〇メートルの御堂筋線に直接面しており、黒斜線の部分の土地についても利用価値の減少はない。

(3) 訴外渡辺八重子に借地部分の指定をしたのは、同人が法第八五条第一項の規定に基づき適法に借地権の申告をしたためで、右指定は違法ではない。

(四) 本件第四仮換地について

(1) 本件第四従前地は、原告の主張するようにほぼ正方形で、二面において道路に面しているが、その道路の幅員は八メートルしかない。これにひきかえ、右仮換地の道路に面する部分は一面のみであるが、その道路は幅員九〇メートルの御堂筋線であり、仮換地の利用価値が従前地に比して増大していることは、疑いの余地がなく、また仮換地の形状も、従前地の利用状況に照らし、その使用に何ら支障を与えるものではない。

(2) 原告は、本件第四仮換地指定は、訴外上野化学工業株式会社に対する二九―五ブロツク符号<2>の仮換地指定と対比して、著しく不平等な処分であるというが、右訴外会社の従前地は三か所に角地を有し、二面が八メートル道路に、他の一面が六メートル道路に面しており、二面しか道路に面していない原告の従前地より位置、利用条件において優れていることが明らかであるから、それだけで不平等な処分ということはできない。

4 原告は、借地、借地部分の指定処分の違法を理由に仮換地指定処分の取消を求めているが(請求原因3の(二)の(3)、(4)、(三)の(1)、(2))、賃借権等の存する宅地にあつては、従前の宅地について仮換地を指定する処分と、その仮換地について賃借権等の目的となるべき宅地またはその部分を指定する処分は、別個の処分であるから、借地あるいは借地部分の指定処分の違法を理由に仮換地指定処分の取消を求めることはできず、その主張は、それ自体失当である。

5 本件各借地ならびに借地部分の指定処分は、すでに述べたように、いずれも適法になされており、その取消を求める原告の請求は理由がない。

第三証拠<省略>

理由

第一本件各仮換地指定処分の取消を求める請求について

一  まず、原告主張の請求原因1、2項の事実は当事者間に争いがなく、乙第一・第二号証(以下書証の成立については全て争いがないから、その旨の説示を省略する)、証人黒田喜久男の証言によれば、全般的な事実として、本件土地区画整理事業においては、本件第二仮換地の西および南側で、従前幅員約三メートルにすぎなかつた道路を一六メートルおよび八メートルに拡張整備し、本件第三・第四仮換地の東側に幅員八〇ないし九〇メートルの御堂筋線を新設し、さらにこれらの仮換地周辺には、新大阪駅前線、西淡路南方線(幅員三〇メートル)、十三吹田線(同三〇メートル)、歌島豊里線(同三〇ないし四〇メートル)等の都市計画街路を通し、新大阪駅前広場およびグリーンベルト、難波一号公園(面積一、七八三坪)等の公共施設を設ける等の大規模な環境の改善整備が計画されていること、右施行地区全体における仮換地の平均減歩率は二二・二パーセントであることが認められる。

二  つぎに、原告主張の本件各仮換地の指定処分に関する違法事由について、順次判断する。

1  本件第一仮換地について

(一) 本件第一従前地(三筆)を一括して本件第一仮換地を指定したこと、本件第一従前地のうち西中島町八丁目三〇および三一番地の土地が互に相隣接していたことは当事者間に争いがない。

(二) 乙第一ないし第四号証、同第六号証の一ないし六、証人黒田喜久男の証言によれば

(1) 本件土地区画整理事業開始前および開始後の本件第一従前地と本件第一仮換地および周辺土地、道路等の広狭、位置関係は概ね、別紙図面(一)のとおりであること

(2) 本件第一従前地のうち三〇、三一番地の地上には建物が存在したのでその建物を移転しなくてもすむように本件第一仮換地はその位置に指定された(いわゆる原地換地)が、右従前地のうち同町八丁目三九番地の一の土地は、右仮換地から北方へ六〇メートル以上離れた位置にあり、場所的に相当の隔たりがあつたが、面積が一四・一四平方メートル(査定地積)と狭小であるので、右三〇、三一番地の土地と一括して仮換地を指定したもので、減歩率は〇・四パーセント(二九ー一ブロツク全体の平均減歩率は二・四パーセント)にすぎず、三九番地の一の土地を除く右従前地と本件第一仮換地の位置形状を比較しても、いずれも道路に二面を挾まれた三角形の土地で、わずかに従前地よりも仮換地の方が、東側の道路に面する部分で短かく、南西側の道路に面する部分で長いほかは、それほどの相違はなく、よく照応していること

(3) 道路状況は、本件第一従前地は東および南西側において幅員約三メートルの道路に接していたが、本件第一仮換地においては、東側、南西側ともに幅員四メートルの道路に接しかつ、これらの道路はいずれも約一四メートル南に行くと東西に通ずる幅員八メートルの道路(新設、この道路を東へ行くと至近距離で前記御堂筋線に接続し、西に行くと約八三メートルで幅員一六メートルの道路(新設)に接続する)に、東側道路を約八七メートル北に行くと幅員一〇メートルの道路(新設)に、それぞれ接続することになつており、全体を客観的にみて、本件第一仮換地を含む一帯の土地の交通の便利は増大していること

(4) 本件土地区画整理事業の仮換地指定において、面積が六三平方メートル程度の狭い土地は、他のより広い面積の土地と一括して仮換地を指定しなければならないとする原則はなく、また本件第一従前地のうち三〇・三一番地の土地付近は、旧部落で家屋が密集しており、右地上の建物を本件第二仮換地のうち二九ー二ブロツク符号<6>の仮換地付近まで移転させることは事実上不可能であること

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三) 右認定事実によれば、本件第一仮換地は、それだけでも独立して建物敷地等として利用できるだけの面積を備えていると認められるが、原告は、本件土地区画整理事業においては、この程度の面積の従前地についても他のより広い面積の土地と一括して仮換地指定がなされる原則があるのに、本件においてのみその措置がとられず、そのために狭小で極めて不整形な三角形の仮換地を指定されることになつたと主張する。しかし右認定によれば、そのような原則はなく、さらに、原告の主張するように、二九ー二ブロツク符号<6>の仮換地の従前地と本件第一従前地を一括して、その仮換地を指定することは、付近に建物が密集していて従前地上の建物の移転ができないため、事実上不可能であると認められるから、そのような措置をとらなかつたとしても、本件第一仮換地の指定処分が違法であるとはいえず、原告の右主張は採ることができない。なお原告は、本件第一仮換地について、狭小で不整形の土地であると不服をいうが、それは、もとになる従前地の地積、形状によることであつて、前記認定事実にあるとおり、本件第一仮換地の指定は従前地と照応するように適正になされており、原告のみた差別的な指定処分をなした事実は全く認められない。

よつて、本件第一仮換地の指定処分に関する原告の主張はすべて理由がない。

2  本件第二仮換地について

(一) 本件第二従前地のうち訴外青木吉太郎が賃借し、占有中の西中島町八丁目五五番地の一、二の土地を一括して二九ー二ブロツク符号<5>の仮換地、同所四五、四八、四九、五〇番地の四筆の土地を一括して同ブロツク符号<6>の仮換地としてそれぞれ指定したこと、右符号<5>の仮換地は符号<6>の仮換地の西南隅にこれと隣接していること、右五〇番地の地上には原告の居宅が存在し、南および西側において公道に面していたこと、右四五番地の土地は五〇番地の土地の北側に位置し、第三者が原告から賃借している建物が存在すること、訴外小沢政次郎の同ブロツク符号<3>・<4>の仮換地が、原告の居宅敷地と西側において一部隣接すること、訴外青木吉太郎には右符号<5>の仮換地全部に仮に賃借権が、同川西鉄市ほか一名、同中村勇次には符号<6>の仮換地の一部に仮に賃借部分が、それぞれ指定されたことは当事者間に争いがない。

(二) 甲第一・第二号証、乙第一ないし第四号証・同第七号証の一ないし七、検甲第一ないし第六号証(いずれも原告撮影の原告の居宅の写真であることに争いがない)、証人黒田喜久男、同清水由伊子の各証言、原告本人尋問、検証の各結果に弁論の全趣旨を総合すると

(1) 本件土地区画整理事業開始前および開始後の本件第二従前地と本件第二仮換地および周辺土地、道路等の広狭、位置関係は、概ね、別紙図面(二)のとおりであること

(2)(イ) 二九ー二ブロツク符号<6>の仮換地の従前地(四五、四八、四九、五〇番地の土地)は、合計面積が一、八六〇・三一平方メートル(査定地積)に達する広大な土地で、四九および五〇番地の土地の一部を除けば、南北に長い矩形に近い形状の土地であるが、右部分が南東方向に突出しているため全体としてはL字形のやや不整形な形状の土地となつており、右仮換地も、右四五、四八番地の土地は原地がそのままの位置、形状で仮換地となつているが、四九番地の土地の大半、五〇番地の土地の一部は、本件土地区画整理事業により拡張されることになる南側道路の用地として提供され、また五〇番地の土地の一部には前記符号<5>の仮換地の一部が割込んだ形で指定されているうえに、これらに見合う別の土地が付加されているために、南半分でやや不整形な形状になつているが、全体としてみれば、右道路部分、他の仮換地部分となつた土地の面積はわずかで、ほぼ原地換地といい得るし、減歩率も六・一パーセントに止まる(二九ー二ブロツクの全体の平均減歩率は八・四パーセント)こと

(ロ) 同ブロツク符号<5>の仮換地の従前地(五五番地の一、二の土地)は、三方を道路に囲まれた三角形の土地で、幅員約三メートルの道路を狭んで前記五〇番地の土地の南側に位置したが、その仮換地は、右従前地の大半が前記南側道路および西側道路の拡張部分にあたるため、その仮換地は従前地より北側へ右符号<6>の仮換地の南西隅に隣接する部分に指定され、その形状は正方形に近く、減歩率はやや高く二四・二パーセントであること

(ハ) 第二仮換地全体では、第二従前地よりも形状の不整形さは緩和されていること

(3)(イ) 二九ー二ブロツク符号<6>の仮換地の従前地全体としては、北、西および南の三面で幅員約三メートルの道路に接していたが、右仮換地においては、西側の南端部分で幅員一六メートルの道路(新設)に五・七メートル接し、小沢政次郎の同ブロツク符号<3>、<4>の仮換地が接する部分では道路がなくなるが、西側北端では再び幅員四メートルの道路に一九・五メートル接し、南側では幅員八メートルの道路に三三・八メートル接し、北側は幅員四メートルの道路に全体が接しており、右西側北端の幅員四メートルの道路は別の道路を経由すると至近距離で右幅員一六メートルの道路に接続し、さらに右北側道路は約四〇メートル北へ行くと幅員一〇メートルの道路(新設)に、南側道路は約四〇メートル東へ行くと幅員九〇メートルの御堂筋線(新設)に、それぞれ接続することになつており、前記小沢政次郎の仮換地が接することになつた部分の道路がなくなり、符号<5>の仮換地指定により南西側の道路が一部使用できなくなる等一部不便になつたところもあるが、全体的、客観的にみて、本件第二仮換地を含む一帯の土地の交通の便は著しく増大していること

(ロ) 二九ー二ブロツク符号<5>の仮換地の従前地は、周囲を幅員約三メートルの道路に囲まれていたが、右仮換地は前記南側の八メートル道路と西側の一六メートル道路が交差する手前に位置し、交通の便等は極めて良好であること

(4) 二九ー二ブロツク符号<6>の仮換地の従前地(四五、五〇番地の土地)には、原告の居宅、土蔵、門長屋、通用門、中門があり(その位置は別紙図面(二)に表示したとおり)、原告は従来南西側の道路へ出入りするのにこの通用門中門を利用していたが、前述のとおり訴外小沢政次郎の同符号<3>、<4>の仮換地が西側に一部隣接し、同符号<6>の仮換地(それは全部が訴外青木吉太郎の賃借地と定められた)が同図面表示のところに指定され、またこれも右図面に表示したとおり、訴外中村勇次の借地部分が従前の借地の位置より中央寄り通用門に近い場所に指定され、同人の建物はそこに移転することになる(そのいきさつについては、つぎに認定するとおり)ために、原告自らが居宅敷地、庭園等として現に使用している土地部分(従前地のうち五〇番地の土地の一部)は、(イ)西側で幅員一六メートルの道路に約五・七メートル、南側で幅員八メートルの道路に約六メートル接するだけで、(ロ)南側の前記門長屋、通用門および中門はその位置から撤去しなければならず(なお通用門などは右(イ)の道路に接する部分に新設しなければならない)、その東側にある前栽も形状が不整形となり、そのために旧家としての風格も多少損われることになるが、(ハ)本件土地区画整理事業開始前においても、西側の公道に接していた部分には原告の居宅、堅固な土塀があり、西側の公道とは遮断されていたので、仮換地指定の前後で、それ程道路の利用状況に変更はないこと。

(5) 本件第二従前地のうち、訴外中村勇次は四九番地の土地の一部を、同川西鉄市、同三宅正敏は五〇番地の土地の一部を、訴外青木吉太郎は五五番地の一、二の土地全部を、それぞれ賃借しているとして同人らは法第八五条第一項による適式な借地権の申告をなし(原告との連署ではなく、必要書類を添付して)それに基づいて被告は、訴外中村勇次、同川西鉄市、同三宅正敏については、借地上の家屋の移転が可能となるように配慮して、従前の借地部分とは全く離れた二九ー二ブロツク符号<6>の仮換地上にそれぞれ仮に借地部分を指定し(その位置は別紙図面(二)に表示したところ)、訴外青木吉太郎には、同ブロツク符号<5>の仮換地全部を仮に賃借地と指定したこと、訴外川西鉄市ほか一名に対する借地指定部分の面積は九五平方メートル、同中村勇次に対する借地指定部分の面積は七〇平方メートルであること

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三) 右(一)および(二)の事実に基づき考えるに

(1) 二九ー二ブロツク符号<6>の仮換地は、従前地と比較して、利用方法が制限され、利用価値は著しく低下しており、位置、形状等の立地条件においても照応していない、との原告の主張は採るを得ない。

右仮換地は、ほぼ原地に指定されており、その形状は南半分においてやや不整形であるが、その度合は従前地とそれ程相違するものではない。

道路状況についても、訴外小沢政次郎の仮換地が接する西側部分で道路がなくなり、また同ブロツク符号<5>の仮換地指定とその訴外青木吉太郎に対する賃借地指定により、南西側の道路で一部使用不能となるところがあるが、原告は本件土地区画整理事業開始前においてもこれらの道路をすべて従前地からの出入りに利用していたわけではないし、全体的、客観的にみれば、周辺道路の幅員拡張、新設整備により格段に便宜がよくなつており、前記仮換地の利用価値は著しく増大していると認められる。

さらに原告は、自らが居宅敷地等として使用している土地部分について、他人の仮換地、借地部分、建物に囲繞され、狭くなつたうえに袋地同様になつたというが、そのような事実は認められず、西側で幅員一六メートルの道路に約五・七メートル、南側で幅員八メートルの道路に約六メートル直接接して、従前と道路の利用状況に著しい変更がないことは前記認定のとおりで、ただ現在の通用門を利用して、そこから出入りすることはできないというに止まる。

このほか、門長屋、通用門、中門をその位置から撤去しなければならず、前栽の形状が不整形となり、そのために旧家としての風格が多少損われること等の事情は認められるが、これらは、別に清算金(仮清算金)の交付(法第九四条、第一〇二条)、建築物等の移転除却による損失補償金の交付(法第七八条第一項)等の方法によつて解決されるべきであつて、そのために本件第二仮換地の指定処分が違法になるものではないと解される。

(2) 二九ー二ブロツク符号<5>の仮換地指定については、原告は固有の違法事由を主張していない(つぎに述べる賃借地の指定に関するものを除く)が、前記(一)および(二)の事実によれば、この指定も適法になされていると認められる。

(3) このほか原告は、本件第二従前地に借地権を有しない者に仮に借地部分を指定し、あるいは従前地の一部につき借地権を有するにすぎない者に仮換地全部を仮に賃借地として指定したとして、それを理由に本件第二仮換地の指定処分は違法であると主張しているが、この主張は、つぎの理由によりそれ自体失当である。

すなわち、借地権者(実体法上有効な借地権を有するか否かは別にして)に対する借地部分あるいは借地の指定処分は、従前地の所有者に対する(仮)換地指定処分とは別個のものであつて、借地権の存否、範囲は、土地所有者に対する(仮)換地の指定にあたつて考慮すべき事実となつておらず(法第八九条、)指定された借地権の実体上の存否、その範囲と、(仮)換地指定処分が適法であるか否かとは無関係だからである(法第八五条、第八九条、第九八条)。而して、実体上借地権を有しない者に借地部分が指定される等して、仮換地の指定をうけた者(本件の場合は原告)が損害をうけるような場合には、その借地部分の指定処分取消訴訟を提起すれば足り、右損害の救済のためには、それで必要かつ十分である。

ところで、原告が本訴において主張する右事由は、本件仮換地指定処分それ自体についての実体上の違法事由ではなく本件第二仮換地における借地あるいは借地部分の指定処分の取消事由を主張するものであるから、右主張事実が認められたとしても、それは本件仮換地指定処分を違法たらしめるものではなく、結局主張自体失当といわざるを得ない。

(四) 以上の次第で、本件第二仮換地の指定処分に関する原告の主張はすべて理由がないということになる。

3  本件第三仮換地について

(一) 原告主張のとおり本件第三仮換地の指定処分がなされたこと、右仮換地の一部に仮に訴外藤田勇ら六名の借地部分が指定されたこと、その仮換地は減歩(減歩率七・三パーセント)になつているにかかわらず、訴外渡辺八重子を除く五名に指定された借地部分の面積は、本件第三従前地における同人らの借地面積(申告地積)を上回ること(その詳細は別表(一)のとおりである)、この六名に対する借地部分の指定によると、本件第三仮換地のうち原告自ら使用収益できる部分は、別紙図面(三)の黒斜線部分と右仮換地の南端部分の二か所に分離されること、本件第三仮換地、本件第三従前地それに訴外藤田勇ら六名に指定された借地部分の広狭、位置関係が概ね、別紙図面(三)のとおりであることは当事者間に争いがない。

(二) ところで原告は、訴外藤田勇ら五名に、仮換地は減歩になつているにかかわらず、従前地におけるより以上の面積の借地部分が指定され、訴外渡辺八重子については、本件第三従前地上の借地権の有無について争いがありその存在が確定していないのに、借地部分が指定され、またこれらの借地部分の指定によつて、本件第三仮換地のうち原告自ら使用収益できる部分が二か所に分離されたとして、これらを理由に、本件仮換地指定処分は違法であると主張しているが、原告の右主張事由は要するに本件借地部分の指定処分の違法事由にすぎないのであつて、すでにさきに2の(三)の(3)で説明したとおり、本件仮換地指定処分の取消事由には該当しないというべきであるから、原告の右主張はそれ自体失当である。

よつて、本件第三仮換地の指定処分に関する原告の主張は理由がない。

4  本件第四仮換地について

(一) 西中島町七丁目三四番地の本件第四従前地について、本件第四仮換地が指定されたこと、右第四仮換地の公道に面する部分は一面しかないこと、訴外上野化学工業株式会社の同町七丁目三二、三三番地宅地合計九六三・二七平方メートル(以下上野従前地という)につき二九ー五ブロツク符号<2>の仮換地地積六九九平方メートル(以下上野仮換地という)が指定されたこと、上野従前地が三か所に角地を有する土地であることは当事者間に争いがない。

(二) 乙第一ないし第四号証、同第九号証の一ないし七、証人黒田喜久男、同清水由伊子の各証言、原告本人尋問の結果によれば、

(1) 本件土地区画整理事業開始前および開始後の本件第四従前地と本件第四仮換地、上野従前地と上野仮換地および周辺土地、道路等の広狭、位置関係が、概ね、別紙図面(四)のとおりであること

(2) 本件第四従前地は、その全部が本件土地区画整理事業により新設される幅員九〇メートルの御堂筋線の道路用地となるので、その仮換地は二九ー五ブロツクの一部に、従前地とは離れた位置に指定されたもので、その減歩率は二四・二パーセントである(二九ー五ブロツク全体の平均減歩率は二四・七パーセント)こと

(3) 右従前地は正方形に近い矩形状の土地(ただし北東隅は直角になつておらず切れている)で、東および北側で、それぞれ幅員八メートルの道路に接していたが(北東隅も直角になつておらず切れているため、形のうえでは若干道路に面していることになる)、本件第四仮換地は、東西に細長い矩形状の土地で、その東面(長さ八・五メートル)のみが南北に通じる前記御堂筋線に直接接するにすぎず、その他の面はすべて他人の仮換地で囲まれていること

(4) 原告は、本件第四従前地全部を終戦前に、訴外上野化学工業株式会社に賃貸し、爾来、右土地は、同訴外会社が工場用地として使用してきたので、その仮換地である本件第四仮換地も、その全部を右訴外会社が賃借使用していること(現在木造倉庫が存在する)

(5) 上野従前地は、原告の本件第四従前地の西および南側に隣接する広大なL字形の土地で、その東および北側でそれぞれ幅員八メートルの道路に、西側で幅員五、六メートルの道路に、南側でも狭い道路に接していたが、その大部分が前記御堂筋線の道路用地となるために、原告の本件第四仮換地の北側に隣接してその仮換地が指定されたもので(一部は原地換地となる)、その減歩率は二七・七パーセントであるが、形状は向きは異なるがほゞ従前地の形に近く、その東面(長さ約二九メートル)が前記御堂筋線に、北面も東西に通じる幅員八メートルの道路(新設)に、それぞれ接しており、従前地の南側の狭い道路を別にすれば、仮換地の道路に接する部分の長さは従前地のそれに近く、しかも次に述べるように、二九ー五ブロツク符号<1>の仮換地とも接続する位置に指定されており、訴外上野化学工業株式会社は、従前地、仮換地ともに、原告から賃借している本件第四従前地、仮換地と合わせて工場用地として使用しているが、上野仮換地は、従前地に比し、立地条件、環境、道路状況において優れ、その利用価値は著しく増大していること

(6) 本件上野仮換地の西側には、同じく訴外上野化学工業株式会社の別の仮換地(二九ー五ブロツク符号<1>)が隣接し、右訴外会社は、これも合わせて工場用地として使用していること

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三) 右認定事実に基づき考えるに

(1) (仮)換地は、従前地と(仮)換地とが、位置、地積、利用状況、環境等において照応するように定められなければならない(照応の原則、法第九八条第二項、第八九条第一項)とされているところ、本件第四従前地は、すでに東および北側において幅員八メートルの道路に接し、形状も正方形に近い矩形状の土地で利用価値は優れていたと認められるが、本件第四仮換地は間口の狭い奥行の深い形状の土地であるうえに、三方を他人の仮換地に囲まれ、公道に面するのは東側の長さ八・五メートルの部分のみであるから、その利用方法は制限され、本件第四従前地と比較して、その位置、形状等の立地条件、環境において劣り、利用価値は多少低下していると認められるから、従前地との照応関係において、疑問なしとしない。なるほど、本件第四仮換地に面する右公道は、幅員九〇メートルの御堂筋線で、従前地周辺道路の幅員とは比較にならないが、道路幅の広狭に正比例して直ちにそれに接する土地の利用価値が増大するというものではないし、道路に面する部分が右のように狭く、奥行が深ければ、その道路を十分活用することもできないと考えられる。

なお、従前の土地と仮換地とが照応するか否かを判断するにつき基準となるべき時期は、原則として整理事業開始の時であるところ、原告は本件土地区画整理事業が開始された当時、本件第四従前地全部を訴外上野化学工業株式会社に賃貸しており 自ら直接使用していなかつたのであるが 右の賃貸借関係はその性質上当然に無限に存続するというものではないし そうでなくても立地条件、環境、利用価値が劣れば地代等の収益は減少するのであるから、従前地を自ら直接使用していない場合においても、これらの点の照応を考慮しなければならないと解される。

(2) つぎに(仮)換地指定処分においては、右の照応の考慮のほかに、その指定処分が多数の者の間でなされるところから、他の者に対する(仮)換地との間で、不公平な結果が生じないように配慮しなければならないのであり(公平の原則)、もし特定の者に、合理的な理由がないのに、他の者に比して、著しく不利益な指定をしたと認められる場合には、その指定処分は違法であり、取消されるべきものと解される。

ところで、すでに認定したように、上野仮換地は、その従前地に比し、位置、形状等の立地条件、環境、道路状況において優れ、その利用価値は著しく増大していると認められるのに反し、原告の本件第四仮換地は、その従前地と比較して、立地条件、環境において劣り、利用価値も多少低下しているから、訴外上野化学工業株式会社に対する二九ー五ブロツク<2>の仮換地との対比でみる限り、従前地に対する照応の関係、利用価値等について不自然なものがあり、原告に対する本件第四仮換地指定処分が、極めて不公平なものであることは、明らかである。被告は、原告の本件第四従前地が東および北の二面において道路に接するにすぎないのに対し、上野従前地が東、北および西の三面において道路に面していたことを強調するが、上野従前地の西側道路の幅員は比較的狭く、これおよびさらに狭い南側道路を除けば、原告の右従前地の方がむしろ道路に面する部分は長いのであるから、これだけの相違で、右のように極端に不公平な扱いが是認されるとは到底解されない。

(3) よつて、本件第四仮換地指定処分は、結局、照応の原則、公平の原則に反する違法な仮換地指定処分であるといわざるを得ない。

(四) 右(三)の(1)ないし(3)のとおりで、本件第四仮換地の指定処分に関する原告の主張は理由がある。

第二本件各借地ならびに借地部分の指定処分の取消を求める請求について

一  被告の本案前の主張について

土地区画整理法第九八条第一項に基づく借地あるいは借地部分の指定処分の取消訴訟についても、行政事件訴訟法第一四条による出訴期間の制限をうけると解されるところ、右条文によればこの取消訴訟は、その処分があつたことを知つた日から三か月以内に提起しなければならず、また処分の日から一年を経過した場合は、正当な理由がない限り出訴できないとされている。ところで、原告が訴えの変更を申立てて、訴外青木吉太郎らに対する借地あるいは借地部分の指定処分の取消を求める訴えを新しく追加したのが、昭和四六年三月二五日であることは記録上明らかであるが、本件訴状の記載によれば、原告は本訴が提起された昭和四一年八月四日当時すでに右各指定処分があつたことを知つており、また右各指定処分がなされたのは昭和四一年五月三〇日であるから(この点は当事者間にも争いがない)、すでに一年を経過していることも明らかで、形式的には、右訴えの変更による新訴の追加がなされた当時、すでに右の出訴期間を経過しているといわざるを得ないが、右訴状の記載によれば、原告は出訴期間内に提起されている本件各仮換地の指定処分の取消を求める訴訟において、最初からすでに、訴外青木吉太郎に対する借地指定(本件第二仮換地のうち二九ー二ブロツク符号<5>の仮換地全部)を除き(これを争う意思が表明されたのは、右の訴えの変更申立て以後である)、その他の訴外川西鉄市らに対する借地部分指定処分(本件第二仮換地のうち二九ー二ブロツク符号<6>の仮換地および本件第三仮換地の各一部)については、これを争う意思を表明しているから、このような場合には、出訴期間遵守の有無は最初の訴えの提起時を基準として判断するのが相当で、結局、訴外青木吉太郎に対する借地指定処分の取消を求める訴えは、出訴期間を経過しているため、不適法として却下を免れないが、その他の者に対する借地部分の指定処分の取消を求める訴えは適法である。

二  本案について

1  訴外川西鉄市ほか一名、同中村勇次に対する借地部分の指定について

(一) 訴外川西鉄市、同三宅正敏が本件第二従前地のうち西中島町八丁目五〇番地の土地の一部を、同中村勇次が同所四九番地の土地の一部をそれぞれ賃借しているとして、同人らが法第八五条第一項に基づき原告との連署ではなく、必要な書類を添付して適式に賃借権の申告をなし、それに基づいて被告が、昭和四一年五月三〇日同人らに本件第二仮換地のうち二九ー二ブロツク符号<6>の仮換地にそれぞれ仮に賃借部分を指定したこと、その位置は別紙図面(二)に表示したとおりで、右規定にかかる賃借地部分の面積は、訴外川西鉄市らが九五平方メートル、同中村勇次が七〇平方メートルであること、右賃借部分は、同人らの従前地上の建物の移転が可能であるように配慮してきめられたこと、以上の事実は、さきに第一の二の2の(二)の(5)において認定したところである。

(二) 原告は、同人らは右従前地に賃借権を有しておらず、訴外中村勇次に指定された借地部分は、原告の居宅正面中央に位置するから、原告の権利を甚だしく侵害すると主張するが、その事実を認めるに足りるだけの証拠はない。而して、甲第二号証、証人清水由伊子の証言、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、同人らが従前地において賃借権を有していたか否かについては、現在もなお原告と同人らの間にこれをめぐつて紛争があり、訴外川西鉄市、同三宅正敏との間ではそれに関する訴訟が係属していることが認められる。

(三) ところで、土地区画整理事業の施行者である被告としては、提出された権利を証する書類に基づき合理的に判断して、借地権者として申告した者が、その申告にもかかわらず借地権を有しないと明確に認められる場合以外は、借地部分を指定すべきであつて、従前地における借地権の有無について当事者間に争いがあり、そのために借地権の有無がいずれとも決められないような場合にも、借地部分の指定をすべきであると解される。それは、右指定処分が従前地における使用状態に照応した状態をつくりだせば足りるという対物処分的性質をもつことによるもので、実際にも従前地に真実借地権を有する者が、当事者間に紛争があるという一事をもつて、仮換地の使用が認められないことになれば、著しく不合理な結果を生ずることになるからである。(もちろん、借地権を有しない者に対する借地部分の指定によつて、その者が仮換地上になんら使用収益権を取得するものでないことはいうまでもない)。

すると本件の場合も、適法に借地部分の指定がなされたというべきであるから、同人らに対する借地部分の指定処分が違法であるとする原告の主張は理由がない。

2  訴外藤田勇、同石山重太、同渡辺輝夫、同安国縫治郎、同大橋与三吉に対する借地部分の指定について

(一) 被告が、昭和四一年五月三〇日訴外藤田勇ら五名に対し、本件第三仮換地に、それぞれ仮に賃借部分を指定したこと、その位置は、別紙図面(三)に表示したとおりで、本件第三従前地における借地面積、指定にかかる賃借地部分の面積が別表(一)のとおりであること、右仮換地は減歩(減歩率七・三パーセント)になつているのに、同人らに指定された借地部分の面積は、従前地のそれ(申告地積)を上回ること、この借地部分の指定によると、原告自ら使用収益できる部分が、右図面の黒斜線部分と右仮換地の南端部分の二か所に分離されること、以上の事実について当事者間に争いがないことは、すでに第一の3の(一)においても述べたところである。

そしてさらに、乙第一ないし第四号証、証人黒田喜久男、同清水由伊子の各証言、原告本人尋問の結果によれば、本件第三仮換地の指定によると、従前地は、原告自ら占有していた南端部分を除くその余の部分全部が、右仮換地に指定されており(いわゆる原地換地)、そのほかに訴外藤田勇らが賃借している部分の東側にある南北に極端に細長い三角形状の土地が、右仮換地として付加されていること、右藤田勇ら五名には、仮換地指定前から賃借占有していた従前地部分は、地上に家屋等があるので、ほぼその位置に借地部分の指定がなされたが、訴外藤田勇、同石山重太、同大橋与三吉には、さらにこれと接続する右三角形状の土地の一部にも、これに付加して借地部分の指定がなされていること、右五名の借地部分は、従前も西側のみが幅員四メートルの道路に面していたが、本件土地区画整理事業計画によつても、この道路はそのままの幅員で存続するし、この道路は、南へ行つても北へ行つても至近距離で幅員八メートルあるいは一〇メートルの道路(いずれも新設)に接続し、また右三角形状の土地の東側には幅員九〇メートルの御堂筋線(新設)が通じるので、借地部分の利用状況に変更はなく、環境は改善され、客観的な土地の利用価値は著しく増大していること、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二) ところで、法第九八条第二項、第八九条第一項によれば、仮換地上に仮に借地部分を指定するについても、仮換地指定の場合と同様、従前地の借地部分と仮換地の借地部分とが、位置、地積、利用状況、環境等において照応するように定められなければならないとされているが、右(一)の事実によれば、訴外渡辺輝夫に対して指定された借地部分を除き、仮換地における借地部分は、その面積が、従前地におけるそれ(従前地における地積は、借地部分の指定の趣旨からすると、実際の占有部分を測量して算定した査定地積によるのが相当である)を、一三から二一パーセント以上上回つており、従前地の借地部分と照応していないことが明らかである。いうまでもなく、従前地の借地部分と仮換地のそれとが照応するか否かは、前記の位置、地積、利用状況、環境等を綜合的に判断してきめることで、地積のみが照応していないからといつて、直ちに右のような結論になるわけではないが、本件においては、さきに認定したように、その他の位置、利用状況、環境等は従前地と十分照応しているのであるから、地積についても従前地におけると同程度のものを指定すればそれで照応することになり、十分というべく、それにもかかわらず、右のように相当上回る地積の土地を指定しているのであるから、右のように照応していないという結論にならざるを得ない。ともかく、従前地における借地部分に照応するより以上の借地部分を仮換地上に新たに設定するような権限は被告にはない。

そして、このような指定がなされれば、それだけ、原告自ら直接使用し得る仮換地部分の面積が、減少することは、明らかである。

これについて被告は(イ)前記三角形状の土地にも借地部分を指定しなければ、訴外藤田勇らの借地部分の土地が、前記御堂筋線に接しないことになつて不都合であるとか(ロ)このように借地部分を指定しても、本件第三仮換地は、他の仮換地に比して相当減歩が緩和されているため、原告自ら使用し得る部分が不当に狭くなることはないと主張するが、(イ)については、御堂筋線に接するように借地部分を指定しなければ、従前地の借地部分と照応しないというのではないし、もし同人らにおいて必要であれば、原告からその部分を借りうけることもできる(仮換地であるから賃貸借等債権契約による)のであるから、なんら不都合はなく、(ロ)については、それは、仮換地が減歩になつても減歩率が他の仮換地より低い場合(乙第八号証の一ないし三によれば、二九ー三ブロツク全体の平均減歩率は一八・五パーセントである)には、それだけで、仮換地に従前地を上回る面積の借地部分を指定することも許されるとする考えを前提としているが、そのような考えは被告独自のもので、到底賛成できないから、右主張はいずれも採ることができない。

(三) 前記(一)および(二)の事実によれば、訴外渡辺輝夫に対し指定された借地部分の面積は、従前地のそれ(査定地積による)をわずかに下回つており、それと位置、利用状況、環境等を綜合的に判断すると、仮換地の借地部分と従前地の借地部分とは照応していると認められる。

(四) なお原告は、右のように借地部分が指定されると、本件第三仮換地のうち原告自ら使用収益できる部分が、二か所に分離されることになるから違法であるとして、その理由によつても、訴外渡辺輝夫に対する借地部分の指定処分の取消を求めているが、さきに認定したように、同人については、従前地における借地部分に照応するように仮換地の借地部分が指定されているのであるから、その結果、原告の自ら使用収益できる部分が、二か所に分離されることになつたとしても、それはやむを得ないものというべく、その故に直ちに同人に対する右指定処分が違法になるとは解されない。

(五) 以上のとおりであるから、訴外藤田勇、同石山重太、同安国縫治郎、同大橋与三吉に対する本件各借地部分の指定処分は、照応の原則に反する違法な処分であるといわざるを得ず、この点に関する原告の主張は理由があるが、訴外渡辺輝夫に対する本件借地部分の指定処分が違法であるとする原告の主張は、理由がない。

第三結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告が原告に対し、本件第四従前地につき、昭和四一年五月三〇日、本件土地区画整理事業施行者としてなした本件第四仮換地指定処分の取消を求め、被告が訴外藤田勇、同石山重太、同安国縫治郎、同大橋与三吉に対し、それぞれ本件第三仮換地につき、同日、同事業施行者としてなした本件各借地部分の指定処分の取消を求める限度で、正当としてこれを認容すべく、被告が訴外青木吉太郎に対し、本件第二仮換地(二九ー二ブロツク符号<5>の仮換地)につき、同日借地を指定した処分の取消を求める訴えは、不適法であるから却下することとし、その余の請求は、理由がないから棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川恭 鴨井孝之 紙浦健二)

(別紙)

仮換地目録

第一(1) 従前の土地(本件第一従前地、添付図面(一)青線内)

大阪市東淀川区西中島町八丁目三〇番地

宅地 一六平方メートル

(査定地積 一七・二八メートル)

同所三一番地

宅地 二九・七五平方メートル

(査定地積 三一・八三平方メートル)

同所三九番地の一

宅地 一三・二二平方メートル

(査定地積 一四・一四平方メートル

(2) 仮換地 (本件第一仮換地 添付図面(一)赤線内)

二九―一ブロツク符号<4>

地積 六三平方メートル

第二(1) 従前の土地(本件第二従前地 添付図面(二)青線内)

(イ) 大阪市東淀川区西中島町八丁目五五番地の一

宅地 六二・八〇平方メートル

(査定地積 七一・七三平方メートル)

(ロ) 同所五五番地の二

宅地 三三・〇五平方メートル

(査定地積 三七・七五平方メートル)

(ハ) 同所四五番地

宅地 九五二・〇六平方メートル

(査定地積 九九五・八六平方メートル)

(ニ) 同所四八番地

宅地 一六五・二八平方メートル

(査定地積 一七二・八九平方メートル)

(ホ) 同所四九番地

宅地 一四二・一四平方メートル

(査定地積 一四八・六九平方メートル)

(ヘ) 同所五〇番地

宅地 五一九平方メートル

(査定地積 五四二・八七平方メートル)

(2) 仮換地(本件第二仮換地 添付図面(二)赤線内)

(イ) (1)の(イ)および(ロ)に対し

二九―二ブロツク符号<5>

地積 八三平方メートル

(ロ) (1)の(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)に対し

二九―二ブロツク符号<6>

地積 一、七四六平方メートル

第三(1) 従前の土地(本件第三従前地 添付図面(三)青線内)

大阪市東淀川区西中島町七丁目三六番地

宅地 一、四七四・七四平方メートル

(2) 仮換地 (本件第三仮換地 添付図面(三)赤線内)

二九―三ブロツク符号<3>

地積 一、三六七平方メートル

第四(1) 従前の土地(本件第四従前地 添付図面(四)青線内)

大阪市東淀川区西中島町七丁目三四番地

宅地 三四四・三九平方メートル

(2) 仮換地(本件第四仮換地 添付図面(四)赤線内)

二九―五ブロツク符号<3>

地積 二六一平方メートル

以上。

(別紙図面省略)

別表(一)

借地権者氏名

申告地積

査定地積

指定地積

権利符号

藤田勇

一二八・九二

一二九・六八

一五四・〇〇

一一〇一

石山重太

二六四・四六

二六四・四六

三二一・〇〇

一一〇五

渡辺輝夫

二六・四四

三一・二三

三一・〇〇

一一〇四

安国縫治郎

二六・四四

三八・〇一

四六・〇〇

一一〇三

大橋与三吉

二五一・二三

二五一・五〇

二八六・〇〇

一一〇二

(単位は平方メートル)

指定された借地部分の位置は、別紙図面(三)に表示されたとおりである。

別表(二)

従前地

仮換地

減歩率

備考

町名地番

査定地積

ブロツク番号

符号

地積

29ブロツクの1(計)

(m3)

3,503.58

(m3)3,418

2.4

原告所有地

東淀川区西中島町

8―30

〃8―31

〃8―39―1

17.28

31.83

14.14

29―1

4

6.3

0.4

29ブロツクの2(計)

4,379.44

4,010

8.4

原告所有地

東淀川区西中島町

8―43―1

8―43―2

8―180

203.80

154.61

28.56

29―2

1

383

1.0

東淀川区西中島町

3―55―1

8―55―2

8―45

8―48

8―49

8―50

71.73

37.75

995.86

172.89

148.69

542.87

29―2

5

83

24.2

29―2

6

1,746

6.1

29ブロツクの3(計)

3,097.34

2,525

18.5

原告所有地

東淀川区西中島町

7―36

1,474.74

29―3

3

1,367

7.3

29ブロツクの5(計)

3,572.92

2,692

24.7

原告所有地

東淀川区西中島町

7―34

344.39

29―5

3

261

24.2

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例